いろいろと新たに学ぶことの多いセミナーでしたが、先ずは曲集名に深い意味が籠められていることが分かりました。「クラヴィア」は鍵盤楽器の総称です。現在はもっぱらピアノのことですが、当時はオルガン、チェンバロ、クラヴィコードなどを指し、この曲集は、バッハが「オルガンのため」と断っています。問題は「ユーブング」です。一般に「練習曲集」と訳されますが、バッハのオルガン曲の中でも特に難しい曲が多数入っているのを見ると、初歩者のための練習曲集でないことは明らかです。
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そこで「ユーブング」(Ubung)というドイツ語を調べると、「練習」の他に、(精神的、宗教的な)「修行」とか「実践」いう意味があることが分かります。どうもバッハは、オルガンを弾くという実践を通して精神的修行を重ね、彼の言葉を借りれば、「喜びで心を満たす」ことを目指してこの曲集を作成したと思われます。ですから、『クラヴィア練習曲集・第III部』という定訳では、バッハがこの曲集に籠めた意図が伝わりません。そうかと言って適切な訳語がみつからないのですが。
いずれにしても、この曲集の主要曲目は、礼拝を始める教会歌、「キリエ」「グローリア」と6曲の教理問答コラールの編曲です。最初の教会歌は日曜日のため、後の6曲は週日6日間のためです。実際、当時のドイツの子供たちが、これら6曲のコラールを毎日1曲ずつ、学校で歌っていたことが知られています。バッハも子供のときに、このような教育を受けて育った人なのです。
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6曲の教理問答コラールの歌詞は、キリスト教の基本的な教えの解説です。こういう歌を毎日歌って育った人は、教えをしっかり覚えただけではなく、その教えの意味を考えるようになったでしょう。これは「ユーブング」(精神的修行)という継続的な実践によって、初めて身に付く宗教文化です。
このような文化風土から生じたバッハの音楽を楽しみ、演奏するために、バッハの森では、合唱やオルガンの練習(ユーブング)をする際に、同時に歌詞の意味を聖書にまで遡って理解する「ユーブング」をしてきました。しかし、この活動を通して、音楽の練習(ユーブング)は分かり易いが、その音楽を創り出した宗教文化を理解するための「ユーブング」は難しいということもよく分かりました。
音楽の練習は、練習しただけすぐ結果が出ますが、異文化の理解は、ドイツ語やラテン語、異国の歴史や文化といった数々のハードルを乗り越えながら、その考え方を見つけることで、しかも達成したことが、すぐには目に見えるようにならないからです。
それにもかかわらず、バッハの森では、教会音楽の練習とその歌詞の源泉である聖書を学ぶ総合的な「ユーブング」によって、「心が満たされる」喜びを経験してきました。あなたもこの「ユーブング」に参加なさいませんか。(石田友雄)
*昨年12月30日に永眠した石田一子を記念して寄せられた「思い出」と「哀悼の言葉」は、「石田一子が生きた命と私たちの命」という「メディタツィオ」とともに、『バッハの森通信』第103号(2009年4月20日発行)に掲載され、「メディタツィオ」の英訳は外国の友人に送られました。これらの文書に応答してくださった「お便り」の一部を、紹介させていてだきます。(T)
2009年8月10日
北杜市
石田友雄様
4月20日発行の『バッハの森通信』第103号を拝読して、すぐにもお便りを差し上げたく思いましたが、思うことが心に溢れて、なかなか言葉にならないまま今日に至りました。
友雄様の「メディタツィオ」は深い感銘をもって繰り返し拝読いたしました。考えてみますと、一子様と実際に私が接触のあったのは、彼女が女学校1年の3学期(1942年1月)から2年生の終わり(43年3月)までではなかったでしょうか。その後は教室が工場になったり、校外の工場へ勤労動員されたり、電気の供給の止まる日に学校に戻って少し授業をするといった具合でした。帰校日にも、授業のない英語教師だった私は、事務手伝いや、勤労動員に対する配給食料の分配など、慣れない仕事におろおろし通しでした。
一子様が行かれた十条の造兵廠へも3週間ほど通いました。第1週と第3週は、夜7時から朝5時までの夜勤でした。一子様もそこで働いておられたはずですが、個人的な接触など難しい雰囲気で、作業場でお会いした記憶はありません。本来5年制の女学校が4年に短縮され、一子様は1945年の春、専攻科にお進みになったのですね。そこで、糸魚川の近くの日光寺に疎開なさったわけです。
平時なら4年半ほどは教師と生徒という関係のお付き合いがあったはずですが、このような戦時下だったため、一子様との接触は、短い期間で終わってしまいました。しかし、心の中では、ずっとお付き合いのある親しい方、という印象がありました。これは、私の恩師、木村文先生のお嬢さんのカズコちゃんの、あどけない、しかし、真面目な表情が、強く心に残っていたからでしょう。
文先生には、1932年から37年まで5年間、英語のご指導をいただきました。要所要所をきっちりと押さえた格調高いご授業は、私にとって後々まで勉学の支えとなりました。1941年の暮れに、当時の府立女学校から御茶の水に転勤した私は、今度は新米教師として、文先生のご指導をいただくことになり、1946年春、旧制大学進学のため退職するまでお世話になりました。
その後の慌ただしい生活の中で、文先生のご消息や、一子様がオルガンの勉学のため渡米されたことなどは、御茶の水関係の方々を通じて少しずつ伺ってはおりましたが、1976年の文先生のご永眠の折り、ご葬儀に駆けつけるまで、一子様と直接お目にかかる機会はありませんでした。その後、バッハの森文化財団創設のご計画が進められ、財団の評議員として事業に参画するようお誘いを受けてお引き受けしましたが、現役中は時間的余裕がなく、退職した頃には体調が万全ではないため、一度も役員会に出席できないまま終わってしまいました。何とも申し訳なかったと思っております。
この度、「メディタツィオ」を拝読して、何と多くのことをこれまで知らずに過ごして来たことか、と愕然といたしました。『バッハの森通信』やいろいろの催しのお知らせを通じて、一子様の活動ぶりや、友雄様のご協力、ご支援の様子を存じ上げていたつもりでしたが、それはごく皮相的な理解にすぎなかったことが分かり、慚愧の至りです。
一子様がオルガンの勉強を本格的に始められた頃のこと、刻苦勉励の厳しさ、故郷を離れて長年にわたった留学生活、さらにそれを延長されるにあたりご両親の反対を敢えて振り切られた辛さなどについて、初めて知りました。しかしその中で、ご自分の目標を次第に教会オルガニストへと凝縮されていかれたプロセスがよく分かり、その過程で経験されたいくつかの悟りが、後年のバッハの森に結実していった必然性が感じられました。
ご病気が重篤になられてからのご様子も感動的でした。病院の先生方、看護師さん方に大変愛されていらっしゃったご様子がよく分かります。女学校1,2年のほんのお若い時にしか親しくお会いしていませんが、あの頃のおっとりした、しかもちょっとユーモアのある明るいお人柄を、最後まで持ち続けておいでだったように思われます。
「メディタツイオ」最後の「私たちの命」のくだりは、特に感動をもって拝読いたしました。バッハのヨハネ受難曲と、コラール「イェスの苦しみと痛みと死」についてお書きくださったことは、私たちの命、私たちの生と死についていろいろなことを悟らせてくださいました。
ご友人方のご寄稿、お悔やみの言葉も拝読して、あるいは共感し、あるいは感銘を深めましたが、その最初にあった「すべてなし終えて幸せな一生を送られた方でした」という思いは、一子様を知る方々の共通の感慨ではないでしょうか。大事な友人を喪った喪失の悲しみの中に、それと平行して賞賛と羨望の念さえも呼び起こされるご生涯だったのではないでしょうか。一粒の麦は地に落ちたけれど、死んでしまったのではなく、何層倍もの麦に結実した、という実感が、皆様の心の中に宿っているのを感じました。
(大束百合子)
2009年9月21日
シュヴェリン、ドイツ
リーバー・トモオ
お手紙、有り難うございました。ご無沙汰しましたが、つくばのことをいつも思っていました。
先週の水曜日には大聖堂で、バッハの「クラヴィア・ユーブング第III部」から、いわゆる「大オルガン・ミサ」を演奏しました。お送りしたプログラムからご覧いただけるように、このすべてを「カズコ・イシダの記念」として演奏しました。私にとって、多くのコラールは、バッハの森とカズコに結びついているので、このコンサートのためにオルガンの練習をしているときに、突然この考えが浮かんだのです。
カズコを記念するあなたの「メディタツィオ」は、今もなお私のベッドの側に置いてあります。あなたが彼女の一生について、またあなたの悲しみについて語った言葉に、私は大変感動しました。同時に、バッハの森を続けて行こうとするあなたの決意を読み取ることができました。
皆さんに心からのご挨拶を送ります。マインデルトもどうぞ宜しくと申しております。旧くからの連帯のうちに。
(ヤン・エルンスト)
2009年10月4日
エルサレム、イスラエル
ディア・トモオ
先週金曜日、仮庵祭の夜、カズコを追悼する「メディテーション」をいただきました。主人と私はそれを読んでとても感動しました。そして、お二人がエルサレムにおられた頃のことを思い出しました。
私たちはあなたを前から知ってたので、カズコが来てからあなたがすっかり変わったことに気づきました。あなたが、最初、カズコを私たちの家に連れてきた日のことを、今でもよく覚えています。日本からの長旅の後で、彼女はとても疲れていましたが、彼女が繊細だけれど、同時に決意を秘めたひとであることがよく分かりました。今、彼女の生涯と、あれからあなたたちがどんな活動をなさったかを嬉しく読ませていただきました。
彼女の死があなたにとってどれほどの損失か、言葉がありません。でも、あなたがバッハの森を続けようとする勇気ある決意はより印象的です。
ハザク・ヴェエマツ(強く、雄々しくあれ)。
(ディナ・ヴァルディ)
2009年8月29日
ロチェスター、アメリカ
ディア・トモオ
2年前にカズコから、病気になったという手紙をいただいてから、ご回復を祈っていましたが、亡くなったというお知らせを受け、本当にショックで、とても悲しみました。彼女を追悼する「メディテーション」は、素晴らしい慰めのたむけの言葉です。
60年前に彼女がロチェスターで学んでいたとき、3年間、カズコと私は同室でした。彼女はまるでお姉さんのように、優しく私にいろいろなことを教えてくれました。その頃、私がピアノのレッスンを怠けているのを見て、カズコが言いました。「貴女は長い指をしているのにピアノを弾かない。私はこんなに短い指だけれど毎日一生懸命弾いているわ」。私たちは大笑いしましたが、私は彼女の優しい思いやりに感謝しました。
私の母とカズコの記念写真と、わずかですが、バッハの森への寄付を同封します。
(エリザベート・ケイリー・グルナー)
*注記 100ドルのご寄付をいただきました。
7. 10 来訪 神山直規氏(公認会計士)。新法人への移行に関する相談のため。
7. 11 大掃除と話し合い 参加者18名。
7. 24 運営委員会 参加者5名。
8. 1 ハンドベル磨きと倉庫整理 参加者7名。
8. 9 ハンドベル楽譜整理と話し合い 参加者7名。
9. 5 防草シート張りなど 参加者5名。
9. 11 運営委員会 参加者4名。
9. 14 来訪 神山直規氏。
9. 12 第269回(三位一体後第5主日)、
カンタータ「愛する神にのみ統治させる者は」(BWV 93);
オルガン:J. S. バッハ「同上」(BWV 642)、池田福太朗。
参加者14名。
9. 19 第270回(三位一体後第6主日)、
カンタータ「救いは私たちにあちらから来た」(BWV 9);
オルガン: J. S. バッハ「同上」(BWV 638)、池田福太朗。
参加者14名。
9. 26 第271回(三位一体後第8主日)、
カンタータ「神よ、私を探り、私の心を知ってください」(BWV 136);
オルガン:J. S. バッハ「どこへ私は逃れるべきか」(BWV 646)、笠間きよ子。
参加者17名。
バッハの森・クワイア(混声合唱)
9. 12/15名、9. 19/12名、9. 26/15名。
バッハの森・ハンドベルクワイア
9. 12/7名、9. 19/5名、9. 26/6名。
バッハの森・声楽アンサンブル
9. 12/5名、9. 19/6名、9. 26/6名。
教会音楽セミナー(1)
9. 17/9名、9. 24/7名。
教会音楽セミナー(2)
9. 12/6名、9. 19/6名、9. 26/5名。
教会音楽セミナー(3)
9. 29/12名。
入門講座:聖書を読む
9. 11/5名、9. 18/5名、9.25 /5名。
オルガン教室
9. 17/4名、9. 24/2名。
オルガン練習
7. 1/2名、7. 2/1名、7. 3/1名、7. 4/1名、7. 5/1名、7. 6/1名、
7. 7/1名、7. 8/2名、7. 9/1名、7. 10/1名、7. 11/2名、7. 12/1名、
7. 13/1名、7. 15/7名、7. 16/1名、7. 18/3名、7. 19/1名、7. 20/1名、
7. 21/2名、7. 22/6名、7. 23/1名、7. 25 /3名、7. 28/1名、7. 29/4名、
7. 30/1名、8. 1/2名、8. 4/1名、8. 5/5名、8. 8/2名、8. 11/1名、
8. 12/5名、8. 13/名、8. 14/2名、8. 15/1名、8. 17/1名、8. 18/1 名、
8. 19 /3名、8. 21/1名、8. 22/3名、8. 25 /1名、8. 26/4名、8. 28/1名、
9. 1/4名、9. 2/2名、9. 3/3名、9. 4/3名、
9. 8/3名、9. 9/4 名、9. 10/4名、9. 11/3名、9. 12/2名、9. 14 /2名、
9. 15/2名、9. 16/4名、9. 17/4名、9. 18/2名、9. 19/2名、9. 22 /1名、
9. 24/2 名、9. 25/5名、9. 26/2 名、9. 29/3名、9. 30 /4名。
一般寄付
6名の方々と1チームから計655,216円のご寄付をいただきました。
他にE. ケイリー・グルナーより100ドル。
建物修繕費用積立寄付
24名の方々から計202,400円のご寄付をいただきました。