*バッハの森通信
第83号(2004年4月20日発行)

巻頭言
新 し く 生 き る

自分が変わる喜びを目指して

 わたしたちは、1月が「新年」の始まり、4月が「新年度」の始まり、という二重の暦で生活しています。1月が一斉にカレンダーを取り替える、いわば、人間が申し合わせた新年であるのに対して、4月は、新しい生命のサイクルが再び始まったことを、自然界が教えてくれる新年です。日本では、何と言っても、一瞬にして景色を明るく変える櫻の開花が、春に始まる新しい年を象徴しています。
 生命が死に絶えたように見える冬枯れの野原が、春が巡ってくると、新しい生命の活動を示す緑に変わる不思議に、残念ながら、わたしたち現代人は余り驚かなくなりました。しかし、昔の人たちは、世界中どこでも、この自然現象に深い感動を覚え、自分たちも自然界から、再び新しい生命が与えられることを願って、春祭りを執り行ってきたのです。

      *     *     *

 バッハは教会の暦に従って活動した音楽家でしたが、彼の暦にも、勿論、春祭りがありました。復活祭です。これはイェス・キリストの「受難と復活」、すなわち、一度、死んだが復活し、人間に生命をもたらしたキリストを記念する祭日です。 
 バッハの音楽を中心テーマに、学習活動を続けているバッハの森は、当然、バッハが用いた教会暦を学習計画の軸に据えてきました。ただし、バッハの森は文化団体ですから、教会音楽を学んでも宗教儀式はしません。従って、教会のように復活祭の日曜礼拝はいたしません。その代わりに、毎年、4月末、5月の連休中に、ドイツからヤン・エルンストさん(シュヴェリン大聖堂カントル)とマインデルト・ツヴァルトさん(カウンターテナー歌手)を特別講師として招待して、「春祭り」に相応しいテーマでワークショップを開き、そこで学んだ音楽を、フェスティヴァル・コンサートで発表してきました。
 今年のテーマは「マニフィカート」(マリアの讃歌)です。これは、聖霊によってイェスを身籠もった処女マリアが、神の恵みを讃美して歌った歌(カンティクル)として、古くから伝えられてきた宗教歌です。復活祭と直接関係のある音楽ではありませんが、子を身籠もるということは、新しい生命の始まりですから、その意味では「春」に相応しいテーマと言えます。

      *     *     *

 「マニフィカート」と共に、今年5月のフェスティヴァル・コンサートで、わたしたちは、コラール「主キリスト、神の独り子」を歌います。16世紀前半の宗教改革時代に活躍した女流詩人、エリザベート・クルーツィガーが作詞・作曲した全5節のコラールです。これを、バッハは教会カンタータやオルガン曲として、いろいろな形で編曲しました。 
 その第5節の前半は次のような言葉です。 

わたしたちを殺してください、
あなたの慈しみにより。
わたしたちをよみがえらせてください、
あなたの恵みにより。
古い人を弱めてください、
新しい人が生きることができるように。

 「殺してください」とは激しい言葉です。しかし、一度、死ななければ、よみがえり、すなわち、復活はないという真理を、何のためらいもなく、真っ直ぐに表現した歌詞ではないでしょうか。その結果、復活した「新しい人が生きる」とは、実際にはどういうことでしょうか。「変わる」ということです。新しく生きるために古い自分を殺してください、という激しい願いは、もはや自然界の生死のサイクルでは納まらない、自分を変えようとする強く意識的な生き方なのです。
 バッハの森はで、多くの人たちが、学んだ結果、自分が変わった喜びを経験してきました。あなたも、ご一緒に、新しい生命に生きる喜びの歌を歌いませんか。 
                       (石田友雄)

REPORT/リポート/報告            

バッハの森創立記念コンサート
「麗しく輝くあかつきの星」

 1985年に創立されたバッハの森の第19回目の創立を記念するコンサート。テーマは「受胎告知祭」(3月25日)。
 H. シャイデマン (1596-1663) 「前奏曲・ト短調」のオルガンの響きに誘われて別世界に入ると、「受胎告知物語」が、ナレーター、天使ガブリエル、処女マリアの3人の朗読者によって朗読され、それに合わせて、シモーネ・マルティーニ、フラ・アンジェリコなど、ルネサンス期の画家が描いた美しい「受胎告知」のスライドが次々と映し出されました。大写しにされたマリアの表情が、驚き、服従、喜びと変わっていく様子が印象的でした。
 その後で、J. クリューガー (1598 - 1662)の、詩篇98篇1節によるラテン語の3声合唱曲「主に向かいて歌え」が歌われました。

 Cantate Domino     主に向かいて歌え、
 canticum novum     新しき歌を。
 quia mirabilia fecit    なぜなら、彼は驚くべきことをなしたまえば。
 salvavit dextera sua   彼はその右手によりて救いたまえり、
 et brachio sancto suo.  またその聖なる腕によりて。

この歌は、「主に向かいて歌え」と口々に歌い出すと、「新しき歌を」で弾み、「救いたまえり」で次々に押し寄せる波のうねりとなり、最後はハンマーで叩くような強い「腕」を示しています。
 次に宗教画「受胎告知」の象徴について解説がありました。天使の口からマリアに向かって飛び出しているラテン語“Have gratia plena Dominus tecum”は「今日は、恵みに満たされた方、主があなたと共におられます」という意味、天からマリアに差す光の中を飛ぶ鳩は聖霊、天使が持つオリブは平和、白百合は純潔を表す、等々。
 プログラム後半で、コラール「いかに麗しく輝くか、あかつきの星は」“Wie schoen leuchtet der Morgenstern”全7節を、オルガン、ハンドベル、斉唱、二重唱、合唱などで演奏しました。バッハが受胎告知祭のために作曲したカンタータ(BWV 1)の元歌です。
 救い主の輝きに心奪われ、彼の愛を讃美し、彼を慕い憧れる想いで究極の喜びに達するコラールに、参加者全員が感動しました。
 まずD. ブクステフーデ (1637 - 1707)のオルガン曲(BuxVW 223)が、明けの明星がキラキラ輝くような、イェス・キリストの輝きを多様な音色と音型で描くと、続いてハンドベルが、石田一子の編曲により、1節の歌詞の抑揚と意味を忠実に表す熱演をしました。

Wie schoen leuchtet der Morgenstern
いかに麗しく輝くか、あかつきの星は。
voll Gnad und Wahrheit von dem Herrn,
主の恵みと真理に満つ、
die suesse Wurzel Jesse.
エサイの甘き根。
Du Sohn Davids aus Jakobs Stamm,
汝は、ヤコブの幹より生じたるダビデの子、
mein Koenig und mein Braeutigam,
わが王、わが花婿にして、
hast mir mein Herz besessen;
わが心を奪いたまえり。
lieblich, freudlich,
愛らしく、優しく、
schoen und herrlich, gross und ehrlich, 
美しく、素晴らしく、偉大で高貴、
reich an Gaben,
賜物に富み、
hoch und sehr praechtig erhaben.
気高く、まことに壮麗にして崇高な方。

 その後で、1節の日本語訳詩を男声ユニゾン、同節を、J. ショップ(? -c.1664)の編曲で、ソプラノの二重唱がコンティヌオ・オルガンに支えられて華麗に歌うと、2節、3節はM. プレトリウス(1571 - 1621)の編曲による4声合唱、その後でS. シャイト (1587 - 1654)のオルガン曲にオーケストラ・ベルでツィンベルシュテルンを模した響きを入れて演奏。4節はJ. S. バッハのカンタータ(BVW 1/6)から4声合唱とオルガン。再びオルガン曲(J. パッヘルベる〔1653 -1706〕)を挟んで、5節はS. シャイトの4声合唱、6節は再びJ. ショップのソプラノ二重唱とコンティヌオ・オルガン。7節はJ. S. バッハのカンタータ(BVW 1/6)から4声合唱とオルガン。続いて同節を日本語訳詩で参加者全員が歌いました。
 最後に、父なる神の慈しみを信じる信仰を告白するコラール、「われらみな一人の神を信ず」のオルガン曲(BWV 680)が、オルガノ・プレノで朗々と響き渡りました。

オルガン:石田一子
ソプラノ:寺嶋麻衣子、比留間恵
コンティヌオ・オルガン:金谷尚美
合唱と朗読:バッハの森クワイア
ハンドベル:バッハの森ハンドベルクワイア
解説:石田友雄

聴衆の感想:
 こぢんまりとして心地良い空間と環境、最高に素晴らしい響き。オルガン演奏は益々冴えて素晴らしかった。歌声が天使の声のように聴こえる。ハンドベルの美しい響きにも感動。今まで二、三のハンドベルの演奏を聴いたが、他に類をみない感動だった。(横浜市 NU)
 学生時代にハンドベルの演奏を聴きに来て以来、久しぶりにバッハの森に来た。木の香りの中、パイプオルガン、合唱、二重唱、ハンドベル、皆、素晴らしかった。忙しい毎日を送っているが、今日は心穏やかな時間を過ごすことができた。(土浦市 MO)
 木に囲まれた奏楽堂の別世界のひととき、有り難うございました。(水戸市 MS)
 心洗われるような素晴らしいコンサート、有り難うございました。石田友雄さんがリーダーだった、学生時代のワークキャンプで合唱したことを思い起こしました。(ひたちなか市 KU)
 道に迷いながらやっと着きました。教会の礼拝が終わってからうかがうことができ、今日は嬉しい日。私たちのチャペルでもこのような音楽会を開くことができたらどんなにいいでしょうか。よい音楽と歌声、有り難うございました。(水海道 YS)
 受胎告知のスライドは朗読と解説がつき分かり易く、合唱とオルガン演奏に清々しい想いがしました。奏楽堂の雰囲気が、静かな中にも温かさがあって飾ることなく親しめました。バロック音楽は好きでしたが、もっと好きになりました。(谷和原村 YI)
 バッハの森の創立記念日に相応しく美しく充実したプログラム、有り難うございました。素晴らしい演奏の豊かな音と響きに包まれて、幸せ一杯の時を過ごすことができ、心満たされる思いがしました。(東京 YK)
 オルガンの生演奏を初めて聴きましたが、CDとは違って納得がいく響きでした。ハンドベルが単旋律から和声に変わったところや、オルガンに鈴の響きが入ったところ、その他いくつかの場面で背中がぞくぞくしました。私の席からは、特にテノールの方々が全身を使ってのびのびと歌っているのがよく見えましたが、あんな風に歌えたらいいなと思いました。コンサートの後のお茶の時間に、石田友雄さんがある方となさっている会話の中で、「バッハの森ではコンサートのためではなく、日常生活の中の音楽を追究している」とおっしゃっていたのを耳にして、バッハの森のコンセプトと「日常性を掘り下げること」を座右の銘にしている私自身の思いが重なりました。(つくば市 EI)

日 誌(2004.1.8 - 3.31)

1.9 - 15 工事 奏楽堂外壁塗装。
1.16 運営委員会 参加者6名。
   植木剪定
1.28 来訪 田代穣次氏(情報通信国際交流会)。
2.12 見学 日立めぐみキリスト教会 参加者15名+3名(バッハの森)。
2.13 運営委員会 参加者6名。
3.12 運営委員会 参加者6名。
3.20 理事会・評議員会 (財団法人筑波ハッハの森文化財団)出席者12名。
3.21 創立記念コンサート 参加者61名。
3.23 指導(茨城県生活環境部生活文化課)山田保典氏、関純子氏、吉田和弘氏。
バッハの森から3名。

教養音楽鑑賞シリーズ
「J. S. バッハの宗教音楽」
1.17 第101回(新年祭)、カンタータ 「イェスよ、さあ讃美を受けてください」 (BWV
  41);オルガン:J. S. バッハ「古い年は過ぎ去れり」(BWV 614)、「汝に喜 びあり」
  (BWV 615);石田一子。参加者:17名。
1.24  第102回(顕現祭後第2主日)、カンタータ「あぁ、神よ、どれほど多くの心の悩
   みが」(BWV 3);オルガン:J. G. ヴァルター「同上」;古屋敷由美子。参加者:18
名。
1.31 第103回 (顕現祭後第2主日)、カンタータ「すべてはただ神のみこころに従い」
  (BWV 72);オルガン:G. P. テレマン「わが神ののぞむこと、そは常に起こるべし」;
  J. G. ヴァルター「同上」;石田一子。参加者:13名。
2.7  第104回 (七旬節)、カンタータ「私は私の幸いで満足している」(BWV 84);オ
  ルガン:J. S. バッハ「愛する神にのみ支配させる者は」;海東俊恵。参加者:17名。
2.14 第105回(エストミヒ)、カンタータ「イェスは12弟子を呼び寄せた」(BWV 22);
オルガン:J. S. バッハ「主なるキリスト、神のみ子は」(BWV 601);金谷尚美。参
加者:17名。
2.21 第106回(聖金曜日)、ヨハネ受難曲 第2稿(1)Nr.1〜7;オルガン:J.S. バッハ
「我らに祝福賜うキリストは」(BWV 620);「天の王国にいます我らの父よ」(BWV
737);石田一子。ハンドベル「我らに祝福賜うキリストは」;参加者:21名。
2.28 第107回 (聖金曜日)、ヨハネ受難曲 第2稿(2)Nr.8〜14;オルガン:J. G. ヴァ
ルター「イェスの苦しみと痛みと死は」;西澤節子。参加者:21名。
3.6 第108回 (聖金曜日)、ヨハネ受難曲 第2稿(3)Nr.15〜22;オルガン:J. S.
バッハ「我らに祝福賜うキリストは」(BWV 620);海東俊恵。ハンドベル「同上」。
参加者:23名。
3.13 第109回 (聖金曜日)、ヨハネ受難曲 第2稿(4)Nr. 23〜28;オルガン:J. S.
バッハ「我なんじに別れを告げん」(BWV 735);金谷尚美。参加者:17名。
3.27 第110回 (聖金曜日)、ヨハネ受難曲 第2稿(5)Nr.29〜37;オルガン:G. P. テ
レマン「我らに祝福賜うキリストは」;横田博子。参加者:18名。

学習プログラム
宗教音楽研究会 1.27/9名、2.24/8名、3.23/9名。
コラール研究会 1.15/4名、1.29/5名、2.12/4名、2.26/5名、3.11/4名、3.25
/4名。 
教養講座:聖書を読む 1.15/5名、1.22/6名、1.29/8名、2.5/7名、2.12/7名、
2.19/6名、2.26/7名、3.4/6名、3.11/8名、3.18/8名、3.25 /6名。
バロック教会音楽研究会 1.16/10名、1.30/12名、2.13/11名、2.27/10名
3.11/7名、3.26/9名。
バッハの森クワイア(混声合唱)1.17/17名、1.24/16名、1.31 /13名、2.7/18
名、2.14/17名、2.21 /18名、2.28/19名、3.6/20名、3.13/17名、 3.20/
16名、3.27/15名。
声楽アンサンブル 1.17/14名、1.24/11名、1.31 /8名、2.7/10名、2.14/10
名、2.21/13名、2.28/12名、3.6/16名、3.13/13名、3.27/10名。
パイプオルガン教室 1.16/2名、1.21/2名、1.22/3名、1.23/9名、1.30/4名、
2.5/3名、2.6/8名、2.13/4名、2.18/3名、2.19/3名、2.20/7名、2.26/2
名、2.27/4名、3.3/3名、3.4/5名、3.5/4名、3.12/4名、3.17/3名、3.18/
3名、3.19/7名、3.26/4名、3.31/3名。
オルガン体験教室 1.28/2名、2.10/4名、2.17/3名、2.24/6名、3.4/3名、3.6
/6名、3.11/3名、3.25/3名。
声楽教室 1.16/5名、1.17/3名、1.27/2名、1.30 /5名、1.31/2名、2.13/3名、
2.14/6名、2.21 /2名、2.25/2名、2.27/3名2.28/2名、3.12 /3名、 3.14/
6名、3.26/5名、3.27/4名。 
ハンドベル教室 1.14/5名、1.21/6名、1.28/5名、2.4/6名、2.18/6名、2.25/
5名、3.3/6名、3.10/6名、3.17/6名、3.24/4名、3.31/5名。

寄付者芳名 2003.12.17-2004.3.31(敬称略日付順)
4名の方々から、計261,680円のご寄付をいただきました。感謝をもってご報告いたしま
す。
建物修繕費用・地上権・積立会計 2004.1.12- 3.31 (敬称略日付順)。
計131,100円のご寄付を8名の方々と学習プログラム参加者の皆さんからいただきまし
た。
暖房費会計 2003.12.25-2004.3.31 
 計28,850円のご寄付を、入館に際して学習プログラム参加者の皆さんからいただきまし
た。