バッハの森通信 第84号 2004年7月20日発行

巻頭言

天に向かう魂の響き

バロック教会音楽に籠められた思いを理解し再現する喜び

 バッハの森では、今年も5月初めの連休に、ドイツからヤン・エルンストさんとマインデルト・ツヴァルトさんを迎えて、「バロック教会音楽ワークショップ」を開きました。毎年一回開くワークショップも、これで9回目になりましたが、特にヤンとは1989年以来、毎年一緒にコンサートを開いて16年になります。
 最初会ったとき、彼はまだアムステルダム音楽院の学生でしたが、今はハンブルク音大の教授、シュヴェリン大聖堂のカントルとして活躍しています。そして何よりも、バッハの森を一緒に育ててきた私たちの仲間です。
 今年のワークショップ直前、4月19日付の手紙で、ヤンが次のような近況報告をしてくれました。
 「シュヴェリンで、バッハの誕生日を記念するコンサートを開きましたが、“コラールとカンタータ”というバッハの森でしている形式(Form)を初めて取り入れてみました。先ずキリエとコラールを歌い、カンタータの短い解説をしてからカンタータを演奏するという形式です。このコンサートは、演奏とともにその形式(Form)が大変好評でした」
 ヤンは謙虚な人で、バッハの森で私たちと一緒に音楽することを本当に楽しんでくれていますが、それにしても、バッハの森のコンサートの形式が、ドイツでも好評だったという報告は、やはり思ってもいなかったことで、私たちを大いに元気づけてくれました。

       *     *     *

 バッハの森のテーマは、バロック時代の教会音楽です。この音楽の特徴は、音楽のための音楽ではないということです。それは、コンサートで演奏することを目的にした音楽でも、独りで楽しむための音楽でもない、と言い換えることができます。
 そんな音楽があるのか、という反発の声が聞こえてきそうです。現代の社会で音楽をする目的といえば、先ずは独りで楽しむか、他人に聴かせるかのどちらかですから。しかし、少なくともバロック時代まで、教会音楽は、そのどちらでもなく、神に向かって、或いは、天に向かって歌われた音楽でした。そんなこと言われても、私はクリスチャンではないから分からない、と言わないでください。クリスチャンである、なしにかかわらず、いやドイツ人、日本人の区別なく、これは現代人には分からなくなった「昔の人たちの思い」なのです。
 では、もう分からなくなった「思い」を、どうやって理解し、再現したらいいのでしょうか。勿論、彼らが書き残した文章があります。しかし、それ以上に、私たちに彼らの思いを直接伝えてくれるものがあります。音楽です。中世からルネサンス、バロックに引き継がれた音楽には、間違いなく、彼らが天に向かって歌った魂の叫びが響いているのです
 このような理解は、私の独りよがりでしょうか。いいえ、何よりの証拠に、バッハの森の教会音楽コンサートを聴きに来てくださった多くの方々から、「心が洗われたようだ」という感想を、これまでに何回聞かされたことでしょうか。たとえ演奏者が意識していなくても、音楽それ自体が、天に向かって歌った「昔の人たちの思い」を響かせているからです。
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 このような音楽をどのような形式で演奏したらいいか、試行錯誤の末、それらが本来演奏された場である「ミサ」という、伝統的な礼拝形式を、教会音楽コンサートの枠組みにするようになりました。勿論、バッハの森は教会ではありませんから、礼拝はしません。しかし、形式(Form)を定めることにより、これらの音楽の本来の意味が理解され、同時にその「思い」を響かすことができることが分かりました。 
 あなたも、バッハの森の古風な響きを聴きに来て、一緒に歌ってごらんになりませんか。忘れている「天」の響きが聞こえるかもしれません。(石田友雄)


REPORT/リポート/報告                         バロック教会音楽ワークショップ(5月1日〜4日)

合唱:バッハの森クワイア向上の画期的なきっかけ  田中明彦

 今年は何年かたった後でふと思い出してみると、あの年が大きな向上のきっかけだったな、と思えるようになるという予感がする。昨年のワークショップ以来、石田友雄先生と比留間恵さんの一貫した方針の下に、各パートが自発性をもって「歌う」ということに取り組んできた。多声楽の各旋律をいかに捉え、意味を理解した言葉として歌うかということで、指揮者と各パート、各パートと各パートのつながりという三角形が、曲の進行に合わせて現れては消えるという状況が見えてきた。ドイツ語の歌詞については、少なくともキーワードは、一々日本語に訳さなくても、意味を伴ってすとんと心に落ちてくるようになったと思える。事実、総括のとき、ドイツ語が良くなった、とヤンがコメントしてくれた。勿論、反省点は多々あるが、特にコンサートを通してのフィジカルコントロールの難しさを痛感した。ともかく今回のワークショップは、明日につながるものだったと思う。

声楽:暗譜による自然な表現と旋律の受け渡し  三縄啓子

 3曲の課題曲は、いずれもアンサンブルのための美しい音楽だった。レッスンは、マインデルトのアクティヴな指導を、比留間恵さんのチェンバロと、奈良から駆けつけた武藤彰良氏のテオルボの伴奏付きで受ける幸せな時間だった。今年は特にマインデルトから、暗記、暗譜をして、身体の内側から自然に感情を表現すること、アンサンブルでは、ピンポンのように各パートで旋律の受け渡しを大切にすることが求められた。ソプラノ3人、アルト2人、テノール1人の受講生がいろいろな組み合わせで歌ったが、パワフルな体育会系組あり、新妻お上品組ありと様々で、しばしば笑いに包まれた楽しいレッスンだった。

オルガン:内容を理解して歌わせる  海東俊恵

 オルガンのレッスンでは、「打鍵の後のリリースの仕方、リラックスについて」、「曲中の様々な音型をみつけ、それが何を象徴しているか、どう表現するか」、「常にフレーズの始まりと終わりを意識して歌わせること」などを学んだ。最初、馴染みのない古い曲をどうやって弾けばいいか分からなかったが、「コラールの内容を理解し、それをオルガンでどう表現していくか、オルガンの響きや反応を身体で感じ取り、生き生きと歌う」というヤンの実技レッスンを受けた後では、何か楽に自由に弾けるようになったと感じた。

合同レッスン:イントネーションとドイツ語の音素  深谷律雄

 今年、新しく始まった、声楽とオルガンの合同レッスンでは、ヤンがコラールのオルガンによるイントネーションと和声付けの基礎、マインデルトがドイツ語の音素と交唱を指導した。イントネーションは、いくつかの基本的なパターンを例示して、それに倣って受講生が即興で演奏するという、なかなか高度な授業だったが、結構、皆こなしているので驚いた。ヤンの準備したテキストが充実していた。マインデルトはドイツ語の音素を母音と子音に分けて丁寧に伝授してくれた。特に日本人に出来ない3種の e(広い、狭い、曖昧)の区別がよく理解された。交唱は会場の両側に2列に並び、“Meine Seele”を楽譜を見ないで歌う練習をした。練習後、翌日のレッスンに備えて、皆、必死になって歌詞の暗記をしていた。

教会音楽コンサート:聖書の言葉を語り伝える音楽  西澤節子

 中世の修道院を思わせる男声の朗唱で始まる。二重唱とオルガンは物語を聞いている感じ。聖書朗読に沿って歌われる合唱は、聖書物語の流れを伝える。会衆斉唱をリードするヤンのオルガンは、力強くはっきりと、会衆を歌わせる役目を示す。
 バッハの森の教会音楽コンサートは、これらの音楽が生まれた時代に戻って、聖書の言葉を語り伝える役割をもった、その音楽本来の響きを伝える。ひととき中世の民衆になって、大聖堂の中にこだまする、修道僧や聖歌隊の歌声、オルガンの響き、会衆のざわめきなどを想像する素敵な時だった。

      *     *     *

レクチャーコンサート:「聖霊の歌」(6月27日)

慰め主の力を伝えた心に響く演奏

 今回は難しいテーマでしたが、とても面白く、レクチャーとコンサートを拝聴させていただきました。よく出来たプログラムと素晴らしい演奏だったと思います。交唱が非常に効果的でした。バッハのコラールが聴けて幸せでした。(天理市 A. M.)

 つくばに来て一年、バッハが好きなので、一度行ってみたいと思っておりましたところ、肉屋さんでポスターをみつけました。グレゴリオ聖歌を一昔前に学んだことがあり、懐かしく思い出しました。心に響く素敵な演奏、ありがとうございました。(つくば市 J. S.)

 奏楽堂の気温が下がったかと思うほど、きれいな歌声でした。ハンドベルもこんなに美しいものとは思っていませんでした。キリスト教についても学ぶことができてよかったと思います。(つくば市 M. K.)

 とても綺麗に音が響く奏楽堂で、合唱、オルガン、ハンドベルの演奏が聴けて楽しい時間を過ごすことができました。今は無理なのですが、機会があれば一緒に歌いたいと思いました。(町田市 A. K.)

 合唱にはいつも感心しますが、今日は特に語尾がはっきり聞こえて、しっかりした土台があるように感じました。オルガンは特に最後の曲の演奏が圧巻でした。さすがは一子先生! コラール3曲が分かりやすく配分された良いプログラム構成でした。(つくば市 H. M.)

 慰め主の聖霊が、私たちを生かしてくださる力であることを、再び実感しました。レクチャーとオルガン、歌とハンドベルが、乾いた心に染み渡りました。力を受けて家路につくことができます。(栃木市 Y. S.)

 パワー溢れるレクチャーコンサートでした。朗読を伺い、歌詞も目で追いながら、比留間恵さんの力強い指揮振りに感心し、クイワイアの澄んだ歌声に、自分も参加している思いで終始していました。オルガンのきらめく「聖霊の歌」に包まれて、パワーをいただき、ハンドベルのキラキラと冴える音色に心が染まりました。(Y.K. 東京都)


      *     *     *

2003年度 報 告

集会回数・参加者延人数(2003.4.1〜2004.3.31)

回数
延人数
学習プログラム
教会音楽研究会
3
22
宗教音楽研究会
7
62
オルガン音楽研究会
1
3
コラールの和声
11
58
バロック教会音楽研究会
13
127
研究書講読
6
30
コラール研究会
16
69
聖書を読む
35
255
バッハの森クワイア(混声合唱)
36
693
声楽アンサンブル
31
376
バロック教会音楽ワークショップ
4日間
142
クリスマス祝会
1
34
音楽教室
パイプオルガン
78
306
オルガン体験教室
11
36
声楽
46
177
ハンドベル
38
204
公開プログラム
教養音楽鑑賞シリーズ
31
570
コンサート
5
287
子供のためのクリスマス
1
59
運営活動
運営委員会
11
68
財団法人理事会・評議員会
2
23
大掃除
2
13
その他
見学と来訪
3
4
放送取材
1
5
4日間+ 389
3,623

会員移動(2003年度)

入会 退会 増減
維持会員
17
28
- 11
賛助会員
5
4
+ 1
22
32
- 10

会員数(2004.3.30現在)

維持会員 152人
賛助会員 61人
  計 213人

会計報告(2003年度)

収入の部(単位千円) 支出の部(単位千円)
前期繰越
1,256
管理費
4,190
基本財産利息
2
事業費
4,049
維持・賛助会費
1,318
特定預金支出
785
寄付
1,625
借入金返済支出
360
受取利息
0
次期繰越
1,345
事業収入
4,750
10,729
雑収入
1,778
借入金
0
10,729

長期借入金  37,080

 日 誌(2004.4.1 - 7.2)

4.5 来訪 鈴木欽一氏(茨城県保険福祉部長)、他1名。
4.9 運営委員会 参加者7名。
4.27 到着 ヤン・エルンスト氏とマインデルト・ツヴァルト氏、
   シュヴェリンより。(5.6  帰国)。
5.1 - 4 ワークショップ(第9回バッハの森バロック教会音楽)
   参加者:受講生19名、 講師4名、スタッフ5名、計28名。
5.4 教会音楽コンサート「マニフィカート」参加者73名。
5.14 運営委員会 参加者6名。
6.11 運営委員会 参加者6名。
6.19 理事会・評議員会(財団法人筑波バッハの森文化財団)
   参加者12名。
6.27 レクチャーコンサート「聖霊の歌」 参加者39名。

 教養音楽鑑賞シリーズ
 「J. S. バッハの宗教音楽」

4.3 第111回(聖金曜日)、ヨハネ受難曲 第2稿(6)
  Nr. 38〜40;
  オルガン:J. S. バッハ「キリストよ、神の小羊よ」(BWV 619)
  伊藤香苗。 参加者:11名。
4.10 第112回(棕櫚の主日)、カンタータ「天の王よ、歓迎いた
  します」(BWV 182);オルガン:J. G. ヴァルター「イェスの十
  字架と苦しみと痛みは」;奥園蘭子。参加者:20名。
4.17 第113回(復活祭第1祝日)、カンタータ「キリストは死の縄
  目につき」(BWV 4);オルガン:H. シャイデマン「同上」,
  J. S. バッハ「同上」(BWV 625);石田一子。参加者:19名。
4.24 第114回(ミゼリコルディアス・ドミニ)、カンタータ
  「主はわが飼い主」(BWV 112); オルガン:G. ベーム「いと
  高くいます神にのみ栄光あれ」;伊藤香苗。参加者:20名。
5.15 第115回(ユビラーテ)、カンタータ「お前たちは泣きうめ
  くだろう」(BWV 103); オルガン: J. パッヘルベル「神がの
  ぞみたもうこと、それが常に起こるように」;金谷 尚美。
  参加者:11名。
5.22 第116回(ロガーテ)、カンタータ「本当に本当に私はお前
  たちに言う」 (BWV 86); オルガン:H. シャイデマン「救いは
  われらに来たれり」, J. S. バッハ「同上」(BWV 638) ;
  石田一子。参加者:18名。
5.29 第117回(昇天祭)、カンタータ「神は歓呼とともに昇って
  行かれた」 (BWV 43); オルガン:J. S. バッハ「いと高くいま
  す神にのみ栄光あれ」(BWV 711);西澤節子。参加者:14名。
6.5 第118回(聖霊降臨祭第1祝日)、カンタータ「おぉ、永遠の
  火、愛の源泉よ」(BWV 34); オルガン: D. ブクステフーデ
  「来たれ、聖霊、主なる神よ」;海東俊恵。参加者:15名。
6.12 第119回(三位一体祭)、「待ち望んだ喜びの祝日よ」
  (BWV 194/1〜6); オルガン:G. ベーム「大いに喜べ、わが
  魂よ」;伊藤香苗。ハンドベル:「同上」;石田一子、岩渕倫子
  別所直樹。参加者:16名。

学習プログラム

宗教音楽研究会 4.20/7名。
コラール研究会 4.8/4名、4.22/4名、5.13/4名、5.27/5名、6.10/5名、6.24/6名。 
教養講座:聖書を読む 4.1/7名、4.8/7名、4.15 /5名、4.22/7名、5.13/7名、5.20/6名、5.27 /5名、6.3/6名、6.10/5名、6.17/7名、6.24 /7名。
バロック教会音楽研究会 4.9/11名、4.23/10名、5.14/11名、5.28/11名、6.11/10名、6.25/9名。
バッハの森クワイア(混声合唱)4.3/12名、4.10/16名、4.17 /17名、4.24/19名、4.15/11名、5.22 /14名、5.29/13名、6.5/13名、6.12/15名、6.19 /13名、6.26/14名。
声楽アンサンブル 4.3/8名、4.10/12名、4.17 /12名、 4.24/15名、5.15/7名、5.22 /13名、5.29/9名、6.5/13名、6.12/11名、6.19 /11名。
バッハの森ハンドベルクワイア 4.7/6名、4.14/5名、4.21/5名、4.28/7名、5.12/5名、5.19/7名、5.26/5名、6.2/5名、6.9 /5名、6.16/4名、6.23/5名。
ハンドベル入門コース  5.19/4名、5.26/3名、6.2/4名、6.9/4名。
パイプオルガン教室 4.1/2名、4.2/7名、4.9/3名、4.14/3名、4.15/3名、4.21/4名、4.22/4名、4.23/4名、5.12/4名、5.13/2名、5.14/4名、5.20/3名、5.21/5名、5.26/2名、5.28/4名、6.2/2名、6.3/5名、6.4/4名、6.11/4名、6.16/3名、6.17/2名、6.18/3名、6.30/3名、7.1/2名、7.2/2名。 声楽教室 4.10/8名、4.23/2名、4.24/4名、5.14/5名、5.28/4名、5.29/2名、6.11/5名、6.12/5名、6.25/3名、6.26/7名。

一般寄付

2004.4.1 - 7.2の間に7名の方々から、
計210,000円のご寄付をいただきました。
感謝をもってご報告いたします。

建物修繕費用・積立会計寄付

2004.4.1 - 7.2の間に21人の方々と学習プ
ログラム参加者、クワイアお茶会会計の皆さん
から、計208,600円のご寄付をいただきました。

暖房費会計 2004.4.1 - 4.17

計5,600円のご寄付を、入館に際し
て学習プログラム参加者の皆さんか
らいただきました。